胃腸炎と診断された方へ

胃腸炎の多くはウイルスによる腸管への感染によって引き起こされます。腸管の炎症・機能不全によって、嘔気・嘔吐・下痢・腹痛などが症状として現れます。症状が出現するととてもつらい思いをしますが、早ければ数日から1日程度で嘔気・嘔吐が改善することも多いのが特徴です。とてもつらい思いをしなければなりませんが、特効薬がありません。したがって、症状の「嵐」が過ぎ去るまで、なんとか耐え忍ぶ必要があります。

胃腸炎を乗り切るためにやるべきこと

①水分をとる。
②糖分をとる。
③塩分をとる。
④こまめにとる。
⑤吸収されやすいものをとる。おなかに残りやすいもの(ごはんやうどん、おかゆ)は、なるべく避ける。
⑥嘔吐がなければ、徐々に食事量を増やしていく。
解説
・こまめに水分をとることは忘れないことが多いのですが、糖分や塩分をとることを忘れがちです。お茶や水のみをとっていても胃腸炎が改善しないことが多々あります。これは、主に糖分が足りなくなり、低血糖を起こしてしまうことがあるからです。したがって、糖分も含んだ水分をとるようにしましょう。さらに、人間の腸管は糖分を吸収する際に、塩分を同時に吸収する必要があるため、塩分も同時にとるといいとされています。そのため、胃腸炎の際によいとされる「経口補水液」には水分・糖分のみならず塩分が含まれています。
・嘔吐症状を誘発しにくくすることも重要です。せっかく体内に入れた栄養が、嘔吐によって体から出ていくことを避けなければなりません。食事や水分を多くとりすぎると、食物が胃に滞在する時間が長くなり、それによって嘔吐を誘発しやすい状態になります。したがって、「こまめに」かつ「吸収されやすいもの」をとることが大切です。
・「こまめ」の目安として、スプーン1杯のジュースを5分おきに少量ずつ飲ませるイメージです。
・「吸収されやすいもの」として、消化が不要なものが適当です。経口補水液、ジュース、ゼリーなどが最適かと思われます。おかゆやうどんを選択する方もいますが、これらは吸収の前に消化が必要な食べ物であり、胃の滞在時間が長くなることから病初期には不向きと思われます。
・嘔吐症状が数時間(~6時間程度)落ち着いたら、固形物を口にし始めましょう。おかゆやうどんなどの消化しやすいものからがよいと思います。その際はよく噛んで食べるよう指導しましょう。「よく噛む」のがまだつらい時期は、もう少しジュースやゼリーで継続したほうがいいかもしれません。

「次の受診」の目安

胃腸炎と言われて大丈夫と言われて帰宅したけれども、病気が治るまでは不安でいっぱいかと思います。以下の場合は翌日にも受診してくださいと説明しています。
・症状が前日よりも悪化している場合
・症状は悪化していないが、ほぼ何も口にできていない(またはすべて嘔吐してしまう)場合

「緊急受診」の目安

急性胃腸炎が急激に悪化して緊急受診が必要になることはめったにありませんが、「強い腹痛」には気を付けてください。「痛いと言っているが見た目はそんなでもない」、「痛みは強そうだが嘔吐や下痢によって改善がみられる」といった場合は家で様子を見ていてかまいませんが、こどもがうずくまって痛がって、それが悪化していく場合には夜間でも緊急受診を考えてください。稀に腸重積症を合併している場合や、実は虫垂炎(いわゆるモウチョウ)などその他の重病が隠れていることがあります。これらは治療の遅れが致命的になる場合があるので、「強い持続的な痛み」は緊急受診をお考えください。

点滴が必要かどうか

点滴をしたほうがいいのではないかという要望を受けることがありますが、当院では急性胃腸炎に対して院内で点滴治療をすることはほとんどありません。理由は、とくに小さなこどもの点滴は数時間したところで効果が期待できないからです。有効な点滴治療には少なくとも一日以上の持続点滴が必要です。また、上で示したような口からのこまめな水分栄養補給は持続点滴治療に匹敵することが過去の研究から分かっているからです。
 たしかに、胃腸炎に対する点滴治療は有効な水分・栄養補給方法です。点滴治療が必須になるケースもあります。しかし、点滴治療のメリットを引き出すには「時間」が必要であり、上記の理由から、当院では点滴が必須と判断される場合は大きい病院へ紹介して入院加療をお願いしております。短時間の点滴治療は、大人にとっては「治療をしてあげた感」がある魅力的に見える治療ですが、痛みも伴う治療ながらも実はそれほど効果を生まないと考えられ、近年は経口補水療法を選択することが多くなっています。

吐き気止め(制吐剤)について

当院ではあまり「吐き気止め(以下、制吐剤)」は処方していません。理由は主にふたつあります。
 ひとつめの理由は、制吐剤によって吐き気が一時的に治まって何かを食べられたとしても、数時間で効果が切れてまた嘔吐してしまうからです。
 ふたつめの理由は、一般的に使用される制吐剤はドンペリドン(ナウゼリン)や漢方などありますが、ドンペリドンは脳の中枢に働きかけるだけでなく稀ですが重篤な不整脈を誘発する可能性がありむやみに使うべき薬ではないこと、その他漢方の薬理作用も詳細は不明であり、そもそも治癒に必須ではないからです。
 ただし、あまりにも嘔吐症状が強くて経口摂取が厳しい状態であったり、特別な状況では処方することもあります。

 原則として、当院は「胃腸炎は自然に治すことが理想」と考えており、薬剤投与は極力控えるようにしています。医師自身、またわが子も胃腸炎になったことは多々ありますが、制吐剤の投薬や点滴をしたことは一度もありません。しかし、人によっては嘔吐しやすかったり、特別な治療がどうしても必要になりやすいお子さんもいますので、不安な場合はご相談ください。皆がそれぞれに必要としている医療が受けられるよう努力したいと思っております。よろしくお願いいたします。